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アルミタンク法改正に至る背景
経過措置期限/容器検査所/業界自主基準
★経過措置期限について
6月10日に公布され即日施行という事は、繁忙期を控えたダイビング業界にとって大問題であった。
なぜなら過去1年以内に製造されたか再検査を受けたアルミタンク以外は6月10日以降使用できなくなり、容器検査所(耐圧検査所)に検査を依頼しなければならないからである。
当初、経済産業省では繁忙期前に新しい法律に則った検査済みのタンクにすることを目指していたため、経過措置の期限を1ヶ月程度と考えていた。しかし1ヶ月の間に日本国内で使用されている該当アルミタンクすべてを耐圧検査所で検査するというのは、ダイビング業界にとっては実際上無理であり、出来る限り早く安全措置を講じたいという気持ちは行政も業界も同じであるが、離島などの現状を考えると、繁忙期にタンクが検査中で使用できず、商売が出来なくなる事態も予想された。
そこで、スクーバダイビング事業協同組合、Cカード協議会などから経過措置期限を平成14年末まで延長するように要望が出されたが、経済産業省としても出来る限り早く安全性を確保したということから、経過措置期限が平成14年9月30日と決まった。
★特定再検査のみを行う「容器検査所」の登録
今回の法改正で義務化された、スクーバ用アルミタンクの1年に1回のねじ部の目視検査(特定再検査)は高圧ガス保安法に基づいて登録されている容器検査所(耐圧検査所)でしか行うことが出来ない。
離島などの中には船便の関係もあって検査所に出して戻ってくるまでに1ヶ月単位の期間を必要とする所などもあり、またそれを毎年行わなければならないということは、大変な機会損失と費用負担となる。
ダイビング業界としては、アルミタンクを所有しているダイビング事業者が新たに容器検査所として登録し、自分たちの手によって検査することが出来ないかとの検討をしたが、従前の法律に基づいて容器検査所を新規に登録するには、検査所としての場所や設備などの投資も大きく、大多数のダイビング事業者にとっては無理な状況であった。
こうした問題に対処するため、スクーバダイビング事業協同組合とCカード協議会では経済産業省に対して、法改正にあたって1年に1回の特定再検査のみを行う容器検査所を認めるように強く要望し、この要望が受け入れられる結果を得た。
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★ダイビング業界自主基準の必要性
宮古島でのアルミタンク破裂事故から始まった今回の問題は、アルミタンクねじ部に発生する応力腐食割れにどのように対処するかという点に絞られているが、スクーバタンク内部に発生する錆は、別にアルミタンクのねじ部だけに発生するわけではない。
また、耐食性という点からは、一般的にスクーバ用アルミタンクはスチールタンクよりも優れており、スクーバタンクの内部腐食はスチール製の方が多く発生しやすい。
スクーバタンク内部に発生した、錆は肉厚低下を招きタンク自体強度を弱めるばかりでなく、錆がスクーバ用レギュレータを通ってダイバーに供給されてしまい、ダイバーは錆の混じった空気を呼吸してしまうことになる。衛生上も健康上も問題を生じる。
諸外国のダイビング業界では、スクーバタンク使用にあたって毎年タンク内部の点検を行うように業界基準があり、ダイビング指導機関の初心者用マニュアルにも年1回のタンク内部目視検査を行うよう記載されている。諸外国ではこうした業界基準がかなり徹底されているにもかかわらず、日本国内では業界基準もなくなぜかあまり実施されていない。
「日本は諸外国にないぐらい厳しい法律(高圧ガス保安法)があるから、それによって安全性は確保されているので、目視検査は必要性が薄い。」という人もいるが、はたしてそうであろうか? 今回アルミタンクの問題が発生してからいくつかの容器検査所から情報提供していただいたが、どの検査所からも「5年間一度も内部点検しなかった場合の、スチールタンクの内部腐食のひどさ」について問題提起された。
確かに「レンタルタンクを使って1回ダイビングしたらレギュレーターの高圧フィルターが茶色くなった。」といった話しを聞くことがある。これは明らかにスチールタンク内部の錆が、圧縮空気に混じって出てきているのである。
また、高圧ガス保安法は、高圧ガスの漏洩や破裂事故を起こさない事を目的とした法律であり、呼吸用としての空気の品質については全く触れられていない。そもそも法律の目的外なのである。
こうしたことから、レジャーダイビングとしてのスクーバタンクの安全性確保のためには、ダイビング業界のスクーバタンク安全管理自主基準がぜひとも必要である。また当然ながら業界自主基準と共に、事業者が実際のどのように点検作業を行ったらいいのかを説明した事業者向けマニュアルも必要である。
◎参考例として以下に、ある指導機関の初心者講習用教科書に記載されているスクーバタンクに関する部分を紹介しておく。
タンクの下部にゴムやプラスチックのカバーがついている場合があります。
これは、タンクを立てやすくし、何かにぶつかったときのクッションとしての役割を果たすものです。カバーの中も定期的チェックし、腐食がおこっていないかどうかを確認しましょう。
タンク内部のサビや腐食をチェックするには、少なくとも年に1回は専門家に内部を視認検査してもらう必要があります。
視認検査では、タンク内の空気をゆっくりと抜き、バルブを取り外します。 そして、検査用の特別なライトを使って、腐食、亀裂、ゴミなどの異常をチェックします。(これは、資格のあるサービス・センターで訓練を受けた専門家だけが行える点検作業です。絶対に自分ではタンクを空にしてはいけません。)視認検査に合格したタンクには、検査日を記載したステッカーが貼り付けられます(国によっては使用されていない場合もあります)。ダイビング専門の施設は、視認検査合格を示すステッカーが貼られていないタンクには空気を充填しません。
タンクは金属疲労も起こすので、定期的に耐圧検査を受けなければなりません。この検査では、特殊な検査をする装置内でタンクに高圧をかけ、金属疲労やストレスを示す膨張と収縮の度合いを調べます。耐圧検査に合格したタンクには、記載されている許容圧力で空気を安全に保持できるタンクとして検査日が刻印されます。
ダイビング専門の施設は、耐圧検査日が刻印されていないタンクには充填しません。タンクの耐圧検査に関する規定については、担当のインストラクターが説明いたします。規定は国によって異なります。例えば、米国とカナダでは5年ごとに耐圧検査を受けなければなりません。日本では3年、または5年ごとです。ヨーロッパでは、スチール製のタンクは2年ごと、アルミニウム製のタンクは5年ごとの耐圧検査が義務付けられています。
タンクはまた、適切な方法で保管しなければなりません。
特に空気を充填したタンクは、熱せられると内部の圧縮空気の圧力が上昇して危険なため、涼しい場所に置くよう注意する必要があります。例えば、気温が高い場所に満タンのタンクを放置すると、バースト・ディスクが破裂してしまうことがあります。
タンクを保管するときには、湿気が浸入しないよう0.98MPa(10kg/cm2)〜1.96MPa(20kg/cm2)ほど残して保管します。6ヵ月以上使用しないで保管してあった場合には、中の空気が古くなっている可能性があるので、空気を入れ直してから使用しましょう。
タンクはタイプによって手入れの注意点が異なる場合があるため、メーカーの取扱説明書にしたがって手入れしてください。
スクーバ・タンクとバルブは、正しく取り扱って手入れをしていれば、何年でも使用できるものです。また、模様や絵が描いてあるものなど、カラーバリエーションも豊富です。
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★ダイビング業界自主基準と高圧ガス保安協会自主基準の関係
スクーバタンク安全管理のための「ダイビング業界自主基準」を作成するにあたって、タンク定期検査の合否基準の部分を何に準拠したものにするべきかの検討を行う必要があった。
諸外国にも様々な基準がありそれらをベースにする方法も考えられたが、日本国内でのスクーバタンクは「高圧ガス保安法」に基づいた高圧ガス容器であり、高圧ガス保安協会で高圧ガス保安法に基づいた様々な自主基準を作成している。
それらの中で、スクーバタンクの再検査に関しては「空気呼吸器用継ぎ目なし容器再検査基準 KHK S 0151(2002)」があることから、高圧ガス保安協会自主基準に基づくものにすることが最も適切であり、また業界自主基準による検査合否基準が高圧ガス保安協会のものと異なると様々な問題を生じることになるため、検査合否基準そのものについては高圧ガス保安協会自主基準の「空気呼吸器用継ぎ目なし容器再検査基準 KHK S 0151(2002)」をできる限り忠実に踏襲することとした。
このため、ダイビング業界自主基準は高圧ガス保安協会自主基準の内容を普及啓蒙する役割も担うこととなった。
なお、高圧ガス保安協会自主基準の「まえがき」部分に下記の記述があることを紹介しておく。
また、本基準は、容器検査所を直接の対象としているが、自主的な定期検査等を行う場合にもこれに拠ることが望ましい。
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注意
ただし、高圧ガス保安協会自主基準の「検査の前処理」部分で記載されている下記の項目については、ダイビング業界自主基準では採用しなかった。
「アルミタンク目視検査後ねじの有効山数検査の前処理として、ねじ部にさび等がある場合にあってはタップによる修正をすることができるものとする。」 |
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