ダイビング高圧ガス安全協会
トップ情報と資料の目次アルミ法改正背景1アルミ法改正背景7

アルミタンク法改正に至る背景
割れの進行速度/タンクの変形/委員会提言


★応力腐食割れはどの程度のスピードで進行するのか。

これは、どの程度の頻度で充てんを繰り返すかによって割れの進行スピードは大きく変化する。もちろん頻繁に充てんを繰り返せば、充てんするたびに少しずつ割れが進行する。アルミタンク調査委員会では海外での事故例や、かなり頻繁に充てんを繰り返した場合なども想定し、その他様々な角度からの検討も交え、割れの進行速度を検討した。

 その結果「割れが発生してから、2年以内に破裂に至る大きさまでは進行しない」という結論に達した。これは1年に1回ネジ部の目視検査をした場合、たとえ微細な割れを見逃したとしても、次の検査の時までに破裂に至ることはないということを意味している。

参考として、アルミタンク調査委員会の調査報告書にある「腐食及び割れの進展について」という項を以下に記載する。
腐食及び割れの進展について
 A6351容器及びA6061容器内に水分及び塩分が浸入して、ねじ部表面に腐食が生じ、それを起点に粒界腐食に進んで、応力腐食割れが起こる可能性があることがSSRT(低ひずみ速度試験)で明らかになった。
 応力腐食割れが進展していくと、やがて充てんサイクルの応力による疲労破壊へと移行する。
 疲労破壊が始まれば、充てん回数に比例して進展し、容器の破裂に至ることになる。容器ねじ部の軸方向の割れ状腐食が発生してから、疲労破壊に至るまでの時間はねじ部の結晶粒組織、使用頻度、腐食環境の状態などにより異なる。
 A6351容器の事故事例の製造後の経過年数、直近の再検査から事故までの経過年数及び事故状態をあげると、豪州(製造後15.3年、6.3年前、保管中破裂)、米国(製造後10年以上、4年前、充てん中破裂)、日本(製造後10.5年、2.4年前、充てん直後破裂)、NZ(製造後18年、不明、充てん中破裂)米国(製造後13年、0.5年、充てん中破裂)、米国(製造後11.5年、2年前、充てん中破裂)、日本(製造後14.5年、不明、充てん中漏洩)である。A6351容器の事故事例では、製造後10年以上経過した容器に事故が起っている。再検査からの経過年数で見ると、6.3, 4, 2.4, 2, 0.5年である。容器ねじ部の肉厚から判断して、0.5年で割れ状腐食が容器の破裂まで一気に進展するとは考えられず、割れ状腐食を見落としたものと思われる。容器のねじ部に、このような割れ状腐食が生じる可能性がある、という知識を持っていないと、再検査で見落とす可能性があることを示しているものと判断できる事例でもある。
 A6061容器については事故報告の事例はなかったが、A社製の結晶粒が粗大化していた容器で製造後3年の再検査で割れが見つかり、その割れはサムネイル状で深さが18mmを超えるものであったことが今回の調査で分かった。なお、スキューバ用容器の再検査期間については、豪州(AS2030.1 -1999) では1 年毎の目視検査及び耐圧試験、NZ(ISBN-0-477-03478-0-1992) では1年毎の目視検査と2年毎の耐圧試験、また米国(49CFR-173.34)では5年毎の再検査(目視及び耐圧)を規定しているが圧縮ガス業界団体CGAの基準(P-5)では1年毎の目視検査を追加推奨しているという参考例がある。
 割れの進展速度は、事故事例の再検査後の経過年数及び今回の調査結果等から検討すると、割れ状腐食が起きてから早くても2年を超えないと容器の破裂には至らないと判断できる。
 目視検査を1年ごとに実施すれば、たとえ1度は見落としがあっても次回の検査で検出できる程度になっていると考えられる。したがって、1年に1度、ねじ部軸方向の割れ状腐食を見つける検査を行うことが事故防止に有効と考えられる。
なお、耐圧検査はこの割れ状腐食の検出について寄与するものではないので、従来の頻度のままで良いと判断される。


▲このページのトップへ

★アルミタンクの変形

 アルミタンク調査委員会が容器検査所で不合格とされたスクーバタンクの中に「胴部のふくれ」理由で不合格となったタンクがあった。
 こうしたふくれはスチールタンクには発生しておらず、アルミタンク特有のものであった。調査の結果この「ふくれ」の原因は高温によるクリープ変形であると結論づけられた。

 アルミニウム合金は融点が低く、100〜200℃程度の温度でもクリープ変形(持続荷重による変形)を起こすものであることから、熱による影響によって「胴部のふくれ」が起きたものである。
 そして、空気充てん者の調査から、充てん効率の向上を図るために、急速充てんと親容器への最高充てん圧力を超えた充てんが行われている実態が判明した。急速充てんによる温度上昇は著しく、容器に触れることができない程度の温度となる。夏場に直射日光が当たる条件で、この温度は長時間にわたり持続されるためにクリープ変形による「胴部のふくれ」が起きたものであり、ふくれが放置されれば、いずれはクリープ破壊によって胴部が破裂する危険がある。

★調査委員会から保安確保のための提言

アルミタンク調査委員会からスクーバ用アルミタンクの保安確保のため、以下の提言がなされた。

(1)目視検査について

  1. 容器所有者は、スキューバ用アルミニウム合金製容器であることを明確にして、1年に1度の頻度で、ねじ部の割れ状腐食についての目視検査を受けるものとする。
  2. 空気充てん者は、目視検査に合格して1年以内の容器にのみ空気を充てんする。
  3. 容器検査者は、ねじ下部軸方向の割れ状腐食の検出に有効な照明併用拡大ミラー等を使用し、割れ状腐食を見落とさないよう検査する。
(2)水分及び塩分の浸入防止について
  1. 充てん設備に適した能力のドレンセパレータ及び活性炭槽を設ける。
  2. 充てん設備のメンテナンス、特にドレンセパレータの点検・整備、活性炭槽の交換、親容器の内部ドレンの点検・整備等を定期的かつ適正に行う。
  3. 空気充てん前に、容器に残圧があることを確認する。もし残圧が無い時は、バルブを外して内部を確認し、容器内が水分等で濡れているならば、容器内を洗浄し、乾燥してから充てんする。
  4. 空気充てん前に、バルブ充てん口の水及び海水を除去する。
  5. 容器使用者に対し、容器内に水及び海水が入らないよう、必ず残圧がある状態で返却するよう説明する。
  6. 容器を保管する場合は、適当な圧力を保持しておく。
併せて、空気充てん時にアルミニウム合金製容器の温度上昇防止措置(急速充てんを避ける、水槽で冷却する等)及び親容器の最高充てん圧力の遵守を指導する。

(3)容器製造の改良について

今後、容器の製造に当たっては、容器ねじ部の結晶粒の形状異方性をなくすことが必要であり、そのためには、問題となり得る箇所のマクロ写真等による確認を行うとともに、製造条件の改良を進めることが重要である。結晶粒の大きさについては、今回の調査で判明した最小の1.5mm程度以下を当面の目安にする。

(4)アルミニウム合金の応力腐食割れの研究について

 本調査で、6000系アルミニウム合金(Al-Mg-Si系)製の破裂事故に、応力腐食割れの関与の可能性が示された。しかし、6000系合金における応力腐食割れの研究結果は少ない。
 従って、事故防止のために早急に関連の研究を推進し、関連のデータベースの拡充が望まれる。


▲このページのトップへ
Copyright (C) Y & K Inc., All Rights Reserved